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通訳初体験は同時通訳

Hubbub from the Hub

通訳・翻訳者リレーブログ

スポーツイベントなどでの語学ボランティアを除いて、「通訳者」として初めて通訳をしたのは、大学2年生の時でした。高校生の時から通訳者を目指し、大学に入ると同時に、3・4年生を対象にした通訳関連の授業を多数聴講しました。それと同時に、教えていただいていた先生が通訳をされる国際会議で一般参加が可能なものに数多く通い、表現だけでなく、間の取り方や声の調子など、様々なことを学びました。そんな大学2年生のある時、先生から「今度の国際会議で、事前原稿が出る15分位のスピーチがあるんだけど、挑戦してみる?」と声をかけていただきました。それまでの通訳と言えば、語学ボランティアの内容か、通訳の授業で発表する程度だけ。何も考えずに、「はい、是非挑戦させてください」と言ってしまいました。

その時の会議はアジアの教育問題を扱うもの。私が担当することになったのは、東南アジアからの代表が現地での教育事情を報告するためのスピーチでした。1週間以上前から様々な本や新聞を読んで、東南アジアの教育事情を勉強しました。当時は効率のよい事前勉強の仕方を知らなかったばかりか、事前勉強では何を勉強すればよいのかわからない状態。まだ大学受験からそれほど時間が経っていなかった私は、1週間かけて手当たり次第に情報を集め、ノートに書き出していきました。

会議の2日前位になると英語のスピーチ原稿が届きました。先生からのアドバイスどおり、まずは原稿のベタ訳を作りました。頭が真っ白になって何も頭に入ってこなくなっても、その訳さえ読めば、何とかしのげる、というわけです。そして英語の段落に合わせて、日本語訳の段落にも番号をつけていきます。途中で話が飛んだ時に、英日の照らし合わせがしやすいためです。そしてもちろん用語などをチェックし、いよいよ本番の日を迎えました。

都内某所で行われた2日間の会議。東南アジアの教育事情に関するセッションは1日目の午後にありました。会議では先生ともう一人、やはり20年近いキャリアを誇るベテランの通訳者の2名が英日の同時通訳を担当されました。会議が始まる前に行われたその他のスピーカーとの打ち合わせや、主催者との打ち合わせなど、初めて間近にみる先輩方の姿に感動しながら、「自分も通訳するんだった…」と思い出して、担当するスピーカーの方に「今日のスピーチはこの原稿どおりですか?」と聞くと、「ちょっと変えたのよね。でも新しい原稿が手元に無いからわからないけど… ゆっくり話すから大丈夫よ」との返事。まさかこちらが通訳初体験で逐次通訳の経験も無い大学2年生であるとは知らないスピーカーは、余裕の様子。

本番ではブースの中、私の左に大学でお世話になっている先生(その時の会議の通訳リーダーでした)。右に前出のベテラン通訳者。中央に緊張で口も聞けなくなっている私。実際のスピーチは、元々の原稿にあった内容の順番が入れ替わった程度でした。その為に準備をしてきた段落番号の入ったベタ訳の大活躍! となるはずでしたが、通訳初体験で数百人の聴衆へ同時通訳をしている私に、手元の原稿を見る余裕などありません。足も手も指も震え、目の前は真っ白に。せっかく準備してきたノートも用語集も見るどころか、思い出す余裕もありません。とにかく耳に入ってきた単語を日本語で言うだけの作業。そしてとりあえず日本語が文法的に正しく、とりあえず意味を成し、当たり障りの無いことになっていることだけに気を使いながら、交代時間までの約10分を乗り切りました。

後で気づけば左右の2人の手元には大量のノート。20%位しか訳出していなかった私のために、残りの80%の情報を書いてくださっていたのです。それを見る余裕も無かった私の後を引き継いだ先生は、残りのスピーチを約すと同時に、私が訳せなかった80%をあちらこちらにちりばめて、1つのスピーチとして完結させてくださいました。

「言葉に詰まって無音を作らなかっただけでも成果よ」「とりあえず意味が通る日本語で、突飛な訳は無かったから大丈夫」と帰り道にフィードバックをいただきました。もちろん実際のパフォーマンスはひどいものだったはずです(緊張でほとんど覚えていませんが)。でも2人の大先輩にそう声をかけていただいたことが、その後非常に大きな励みになりました。通訳初体験が国際会議の同時通訳、とは通訳学校のOJTや展示会、工場見学の通訳から始める普通の流れには逆らいますが、本当によい経験になりました。今でも同通ブースに入るといつでもこの国際会議を思い出します。

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Hubbub from the Hub

幼い頃から英語に触れ、大学在学中よりフリーランス会議通訳者として活躍、現在は米国大学院に籍を置き、研究生活と通訳の二束のわらじをはいている。

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