INTERPRETATION

第424回 続けるために必要なもの

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

気が付けば今年もあとわずかとなりました。私は以前まで年初に目標をたてていたのですが、今年はバタバタしていたためか何も考えず。今までは手帳の年間カレンダーに標語のようなものを書き出していたのですが、今年はまっさらです。この1年間自分は人間的・職業的に成長できたのだろうか。省みる日々が続いています。

年の初めというのは気分一新でワクワクしますよね。「今年は〇〇を始めよう!」「今までできなかった△△にチャレンジしたい!」という具合に、新たな一歩を踏み出したくなります。ジムに通う、ヨガを始める、英語を学ぶ、アート系のクラスに参加するなど、未知の分野を通じて心身ともに健やかになれれば本当に幸せです。

ただ、問題となるのが「継続力」。意気込んで始めても多忙になり中断したり、何となく足が遠のいたりということは誰にでもあります。そのようなとき、以前の私は「自分の意志薄弱さ」を恨んでいました。スケジュール管理が甘いのも一因だと考え、自分が不甲斐なく思えていたのです。

けれども近年はこうした考えをやめました。続かないということは、続かないなりの理由があるのです。自分の性格ももちろんなのですが、それ以上の何かが私に「続けさせないサイン」を送っていると考えるようになりました。「それをしているより、もっとやるべきことがある」というメッセージと私は受け止めるようにしています。

たとえば、この秋に体験講座で参加したカリグラフィー。手書き文字が好きで、デザインにも興味があった私は、長年カリグラフィーをやってみたいと思っていました。そしてようやくレッスンに出てはみたものの、「他の日程を調整してまで続けたいか?」と自問自答したのです。その答えはノー。でもこの結論に至るためには、体験レッスンの参加は必須だったわけですので、自分としては大満足です。お陰で割り切れました。

では、私の人生で最長継続年数を記録しているスポーツクラブ。長続きの秘訣は何でしょうか?自分なりに分析してみました。

1.自宅から近い。日本全国に支店があり出張時の参加が可能。
2.インストラクターが素晴らしい。レッスンのトークも楽しく、人間的に素敵な方々。
3.レッスンで使用する曲が私好み。懐かしいメロディーもあり、聴くだけで嬉しくなる。
4.健康を心がけるメンバーさん多数。話しているだけで元気をもらえる。

このような感じです。この中のどれか一つでも欠けてしまえば、通い続けることを断念したかもしれません。

一方、自分の仕事である通訳業や講師業を分析してみると、「良き先輩・仲間に恵まれていること」が筆頭に挙げられます。通訳者だけでなく、裏方さんとして尽力してくださるエージェントのスタッフさんを始め、大学・通訳学校であれば職員の方々が陰で支えてくださるからこそ、気持ちよく仕事をすることができます。そして何よりも、素晴らしいクライアントさんや受講生の方たちから、多くの刺激やきっかけを頂いています。こうした状況であるからこそ、長いことこの仕事を続けられてきたのだとありがたく思います。

ところで「英語学習継続のための工夫」として、私はとある工夫をしています。それは「憧れの人」を持つこと。CNNであればお気に入りの記者を見つけて、その人のニュースは特に真剣に視聴しています。スクリプトがあれば印刷して読み込みます。最近のお気に入りの記者はNick Paton-Walsh(レポートの英文が拡張高くて通訳難!だからこそファン)やRichard Quest(私がBBCに勤務していた90年代はBBCの記者で、現在はCNN人気キャスター。浪花節で楽しい)、Dr. Sanjay Gupta(現役外科医。人格がにじみ出ている)、Bill Weir(環境問題担当。渋い声で聴き手をうならせる)などが挙げられます。一方、女性陣ではBecky Anderson(カッコイイ女性記者。いつもオシャレ)、Amara Walker(韓国系アメリカ人。美しくてかわいらしい)、Bianca Nobilo(数年前にCNN入社。私が留学したLSE出身)などが好きですね。もっといるのですが、キリがないのでこの辺で。

何はともあれ、継続を目指す上での私のキーワードは「憧れ」。仕事であれプライベートであれ、憧れの存在は自分にエネルギーがもたらされると思っています。

(2019年12月17日)

【今週の一冊】

「世界の本好きたちが教えてくれた 人生を変えた本と本屋さん」ジェーン・マウント著、清水玲奈訳、X-Knowledge 2019年

今年の秋は通訳業務が相次ぎ、このところビジュアル系の本のご紹介が続いています。集中的に大量の活字ばかりを仕事資料で読み込んでいる分、こうした写真や絵がふんだんに用いられている本をめくると、本当に心が洗われます。

今回ご紹介する一冊は、指導している大学の図書館新刊コーナーに並んでいたもの。背表紙だけが見えたのですが、タイトルの下にかわいい猫の絵があり、思わず手に取りました。英文の原書タイトルは”Bibliophile: An Illustrated Miscellany”です。著者はハワイ・マウイ島在住のジェーン・マウントさん。かつてIT業界にいたものの、本好きが高じて現在は本や文具などをデザインする仕事に携わっています。

本書の目次を眺めると、「宇宙には何がいる?」「謎が謎をよぶミステリー」「英雄の伝記に人生を学ぶ」「幸せをよぶ魔法のお菓子」という具合に、様々な切り口から本を紹介しています。イラストはどれもほのぼのしており、絵を眺めるだけでも癒される装丁です。

世界中の本屋さんの紹介もあり、珍しい建築の図書館についても知ることができます。たとえばインドにある「ラムプール・ラザ図書館」はかつて宮殿の一部でした。一方、韓国・国立世宗(セジョン)図書館の建物は、まるで「めくった本のページ」のようです。さらに「表紙コレクション」のページでは、ジェン・オースティンの「高慢と偏見」の表紙の変遷が描かれています。

本書に紹介されている膨大な量の本すべてを読みつくすことは、私の場合、一生かけても難しそうです。けれどもこうした本からきっかけを頂き、そこから書の世界に足を踏み入れることができれば、心がとても豊かになりそうです。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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