INTERPRETATION

第75回 1つのことをやり遂げる

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

気が付けばもう6月も半ばですね。私の手帳の日付欄には「今年の残り日数」が掲載されています。6月18日の項には「170-196」とあります。今年に入ってから今日で170日目、年末まであと196日というわけです。毎日が瞬く間に過ぎていきます。

さて、日々の生活を営んでいると、実に色々な「やるべきこと」があります。以前このコラムで、「子どもたちが静かにしている時間帯を見計らって自分の勉強や書き物をする」と書きました。お化粧をしているときでも「あ、今宿題をやっているな」と見受けるや、私自身の身支度を途中にしてでも勉強をしようというものです。なかなか自分のための時間を捻出するのにはエネルギーがいります。ですので私にとってはささやかな工夫でもあります。

けれどもこの方法が唯一の正解とも思ってはいません。というのも、先日こんなことがありました。

洗濯物を物干しサークルやハンガーに干していたときのことです。すべてを洗濯機の脇で干し終わり、ベランダに持っていきました。するとベランダに通じるところの窓辺のソファに、乾いた洗濯物の山が。そこで最初のハンガーを干し終えてからその洗濯物を畳み始めたのです。畳み終わり、余ったハンガーを洗濯機の方へ戻しに行くと、先ほど吊るした物干しサークルがありました。「あ、いけない!これもベランダに干さなくちゃ」というわけで、再び屋外へ。するとソファの上に畳まれたままの洗濯物が目に入ります。「家族個々のひきだしに戻そう」と思いましたが、「いや、干すべきものを先に干してから」と思い直し、すべてのハンガーなどを干し終えるまでに至りました。

そしてその後、畳まれた衣類を引き出しへ戻すべく、今度は子供部屋へ。するとベッドの上の布団が無造作なままになっています。「あーあ、ちゃんと畳んで空気を入れないと」というわけで、布団を畳むことに。すると掛布団の下から娘のぬいぐるみが出てきます。そちらを枕元に戻し、一件落着。と思いきや、先の衣類は床の上に。そう、布団に目がいったので、引き出しにしまわず、床に「一時置き」していたのです。

引き出しにしまい、ダイニングに戻ると、テーブルの上がパンかすだらけです。拭こうと思い、台ふきんを濡らしに行くと、流しには朝食のお皿がそのままに。洗おうと思えば、先に洗ったお皿をまだ拭いていないことに気付きます。

・・・このような感じで次から次へとやるべきことが出てくるのです。確かにその都度、見た瞬間にやるべきことに取り組むのも大事です。「あとでやろう」と思うと案外忘れてしまいますし、記憶させるだけでも脳に負担が出るからです。けれども、その一方で、私のように目に入ってきたことをそのままやっていってしまうと、本来やるべきことがおざなりになる恐れもあります。

ではどのようにすれば良いのでしょうか?私の場合、やるべき家事が目の前に出てきても、「まず今はベランダ。干すこと、干すこと!」と心の中で唱えます。そして干し終わるまではそちらに集中するのです。無事完了したら、次の作業へと進むようにしています。

・・・などとここまで書いたのですが、実は洗濯物をベランダで干しながら「あ、これを今度の『ひよこたちへ』のテーマにしよう!!」と思い立ち、書斎に向かってメモ用紙に色々と書いていたのでした!!

何にしても、焦らず楽しみながら家事も勉強も続けていきたいです。

(2012年6月18日)

【今週の一冊】

「ナイチンゲール 心に効く言葉」 F.ナイチンゲール著、ハーパー保子訳、サンマーク出版編集部編、サンマーク出版、2010年

今回ご紹介するのは、看護師・ナイチンゲールの遺した数々の言葉が納められた一冊。励みになるような人生訓がたくさん掲載されており、読んでいてとても励まされる。

本来であれば、原典の書籍にあたるのが一番良いのだろう。けれどもこうしたアンソロジーも出発点として大いに参考になる。気になる引用から原典にあたるという流れでも良いと思う。

印象的だった箇所を紹介したい。

「りっぱな女性であるためには、つねに向上していなければならいません。」
「人から傷つけられたり、悪口を言われたりしても、それが事実無根だったら、私にとって何の意味もないことです。」
「過去に起こったことが私たちにはどうしようもないからといって、私たちが現在と未来に対しても無力だということにはなりません。」
「人の役に立つことこそが真の気高さ」

看護師も通訳者も、誰かのお役に立つというのは同じ。自己能力達成のためではなく、喜んでいただける通訳者・指導者になりたいとつくづく思う。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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