INTERPRETATION

第29回  番外編 日本通訳フォーラム2019

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

今年は諸事情で8月の一時帰国は無理だとあきらめていたのですが、数週間前に突然「あ、行けるかも?!」ということに気が付き、弾丸一時帰国を実現しました! 8月24日に開催された日本通訳フォーラム2019では教え子が基調講演の同通や司会を担当するためその準備に励んでおり、講演者の中にも知り合いがいて気になっていたところ第2回JACI特別功労賞は小松達也氏に決定したというニュース。ちょうどスケジュール調整ができ、それに合うフライトも見つかり前日に東京入りし無事同フォーラムに参加することができました。

基調講演の新崎隆子先生も受賞のご挨拶をされた小松達也先生も大変興味深い内容をユーモアたっぷりの口調でお話されるので会場は大いに盛り上がりました。

午後は3つのセッションが並行して行われるので各時間帯で難しい選択に迫られます(詳細はこちらをご参照ください)。

私はふだん欧州(たまに中東やアフリカ出張あり)で通訳をしているので、日本の事情をお伺いするのは大変興味深いことです。ずいぶん欧州と事情が違うなと感じたのは当然といえば当然ですが、フランス語やインドネシア語の通訳者事情です。どちらも需要があっても高いレベルの通訳者不足が原因で通訳者手配ができず、「では英語でやりましょう」ということになり、そうすると次の機会も「英語で」という悪循環が起きるそうです。今週はTICAD 7(第7回アフリカ開発会議)が横浜で開催されているので関連のお仕事をされている方も多いと思いますが、アフリカの場合約半数がフランス語圏。フランス語の需要は高いのですが、通訳者が足りず今回は欧州などから呼ばざるをえないとのこと。今からフランス語の会議通訳者を目指せば6年後に日本で開催されるTICAD 9では活躍できるのでは、というアドバイスがありました。

欧州では一番通訳者の数がありあまっているのがフランス語です。イギリスでは、基本的に全員が習う外国語がフランス語です。小学校からたいていまずフランス語会話が教えられ、中学以降は選択になりますが、主流はフランス語です。お隣ということもあり、ホリデーでお互いの国を行き来することも多く、とても身近な言語です。英国在住のフランス人通訳・翻訳者の数も多いです。そこで英仏通訳者の課題は「専門分野」に加えて「他にどの言語ができるか」ということになります(つまり英仏ONLYの通訳者はほとんどいない)。彼らにとって一番手っ取り早いのはスペイン語ですが、言語系統の異なるドイツ語ができたほうがずっと仕事を得やすくなります。

私自身はフランス語を大学時代に第二外国語でかじった程度。聞く・話すが全然できないのでフランスやベルギー出張の際はよく苦い思いをしています(英日通訳者として呼ばれても仏語ができないと取り残されることがあります...)。帰りのユーロスター(ロンドン<>パリ・ブリュッセルを結ぶ高速鉄道)の中でフランス語の学習アプリをダウンロードし勉強し始めたこともあるくらい(でもイギリスに戻ると……)で、今後の課題の一つです。

また「CAI(コンピュータ支援通訳)」についてのセッションも有益情報満載でした。こちらは本コラム第11回で取り上げた内容と重なっています。「21世紀の通訳者」、”the augmented interpreter” 、“Interpreter 3.0”など呼び方は色々ですが、今後は通訳者もテクノロジーをどんどん取り入れてより精度の高い、効率的な通訳が求められることになるでしょう。音声認識による同通支援やRSI(遠隔同通)などはまだ少し先だとしても、まずは身近なところから、逐次通訳者でも資料の閲覧、ノートテーキング、準備などあらゆる側面でデジタル化していくことをお勧めします。私が個人運営しているグリンズアカデミーではタブレットを使ったノートテーキングや資料の閲覧・書き込みを推奨しており、今年に入ってタブレットに移行した受講生が少なくありません。用語の暗記も専用のアプリ(Flashcards Deluxe, Anki, Quizletなど)を使うと隙間時間を利用して効率的に学ぶことができます。

ところで家庭とキャリアの両立は多くの通訳者・翻訳者だけでなく他の職業についている方も抱える問題です。本フォーラムでは子育てとの両立やママ業から通訳業への道のりなどに関するセッションもありました。去年から子育て一段落した私は今回のような弾丸一時帰国も可能となり自由な時間を楽しんでいます。同セッションにも参加しませんでしたが、私も20年間悩み続けた問題でもあります。先が見えなくてつらかった時期もありましたが、終わってみればなんだかあっという間。今苦しんでいる方へのメッセージは「つらい時期は一時的なもの、一生続くわけではない!」です。

通訳者や翻訳者が集まるイベントというのは欧州でもときどき開催されますが、日本人通訳者が多く参加するイベントは皆無に等しいので、日本通訳フォーラム2019にて多くの日本人通訳者にお会いできて光栄でした。会議主催してくださった日本会議通訳者協会の関係者の皆様に感謝申し上げます。

また会場ではハイキャリア拙コラムの読者の方々からもお声をかけていただきました。古い記事を参照したり、勉強ファイルにまとめたり、印刷して何度も読んでくださっている方もいらっしゃるようで嬉しいような、恥ずかしいような……。これからは読者の方のお顔も思い浮かべながら執筆できそうです。ありがとうございます!

今後もお役に立てる記事を書ければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

2019年8月27日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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