INTERPRETATION

第10回 ガンつけじゃないの

寺田 真理子

マリコがゆく

眉間にしわを寄せて、ミーティングの参加者を順番に睨みつけるわたし。

「どいつもこいつも気にいらねーぜ!!」

なんて思いながら、お客さまにガンつけしているわけではありません。ただ、頑張って通訳しようとしているだけなんです。

ウィスパリング通訳のときって、音が聞き取りにくいことが多いんですよね。マイクやヘッドセットがないし、参加者が多いとなんだかざわざわしているし。通訳にとっては、やりづらい状況が多いんです。せめて少しでもよく聞こえるように、身体を乗り出してみたりして。

目から入ってくる情報も大事なんですよね。よく、「相手に伝わる情報は話の内容ではなく、見た目の印象が7割以上」なんて言いますが。通訳というと「耳」だけに頼っているようなイメージか強いかもしれませんが、実はそうでもないんですよね。目から入ってくる情報にも、かなり頼っているものなんです発言している人の表情や口元の動きなんかには、ちゃんと注目しています。

なので、なるべく発言する人が見えやすい位置を確保するようにしています。社内通訳で、参加者がよく知った人だったりすると、「ここがいちばん見やすいから、ここがわたしの席ね!」なんて、ちゃっかり「いちばん偉い人の席」をとってしまったりして。

簡易同通機材が使える場合は、動き回ることもよくあります。聞こえにくかったり、発言者が声の小さい方だったりすると、トランスミッターを持ってその人の近くにズンズン歩いていっちゃいます。お客さまにしたら、いきなり通訳が自分に向かってやってくるんですから、びっくりされるかもしれません。しかも、こわい顔でやってくるんですから!

音が聞き取りにくいときは、特にそうです。口元の動きを一生懸命見ながら、聞こえない分を何とかカバーしようとするんですが、必死なあまり、ついつい眉間にしわが。こわーい顔で、お客さまにきびしい視線を向けてしまいがち。

だから、ガンつけじゃないんですってば!!

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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