INTERPRETATION

第20回 知ってるもん!

寺田 真理子

マリコがゆく

わたしが仕事に持参する資料や通訳メモの片隅には、時々、とても初歩的な英単語が書き取ってあったりします。

もちろん、そういう単語はちゃんと知っていますよ。でも「聞いてその単語の意味がわかる」ということと、「その単語が自然に口を突いて出てくる」ということには、かなり開きがあるんですよね

単語が意識の引き出しに入っていると考えてみると、わかりやすいかもしれません。いちばん上の引き出しが、訳すときに使える引き出しだとします。「その単語が自然に口を突いて出てくる」のは、単語がこの引き出しにしまわれているとき「聞いてその単語の意味がわかる」のは、引き出しの5段目か6段目くらいでしょうか。だから、「もっと上の段にしまわなきゃ!」と、意識化するために書いているのです。

だから、書いてあっても、知らないわけじゃないんですよ。お客さまから見たら、「この通訳はこんな単語も知らないのか?」って、信用をなくしてしまいそうですが・・・。

逐次通訳なら、2段目か3段目くらいの引き出しに入っている程度でも、時間の余裕がまだ多少はあるので、「ポン!」と取り出せることもあります。だけどこれが同時通訳となってしまうと、いちばん上の引き出しにしか手が伸びる余裕がないのです。「なんだか限られた表現をさっきから何度も使いまわしてるわ~」なんて、途中で恥ずかしくなってしまうことがあっても、その引き出しにないものは取り出せないのです。だから、「いちばん上の引き出しにいれておくようにする」しかないんですよね

日本語の場合でも、「こういう表現は自然に出てこないなあ」というのをよく拾っては書いています。「普段使っている表現に、こういう表現も取り入れたら通訳の幅が広がるかも」と思えるようなものなど。仕事以外に、勉強でセミナーやシンポジウムに行く時もやっています。参加者のなかでひとり、本題とは何の関係もない、とても異質なノートをとっているわたしです。たとえば、以前参加したとあるシンポジウムのノートは、こんなふうになっています。

長丁場になりますが

官僚主義に侵されている
共に手を携えて
問題が露呈
鎮守の森
爛熟
礼賛
社会代謝

どんなシンポジウムだったかは、みなさんのご想像にお任せします・・・。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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