TRANSLATION

第31回 編集者さんインタビュー~北川郁子さん(七七舎)前編

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回の連載では、編集プロダクションの編集者さんからお話を伺います。出版社だけでなく、編集プロダクションに持ち込むのもひとつの方法です。どんな可能性があるのか、探っていきましょう。

お訪ねしたのは、介護・生活・福祉に特化した編集プロダクションの七七舎。同社代表でもある編集者の北川郁子さんがインタビューに応じてくださいました。どのようにして企画が持ち込まれているのか、出版翻訳家の活躍の可能性など、詳しく教えていただきました。

寺田:本日はよろしくお願いします。北川さんには、『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』を手がけていただいて以来、『認知症を乗り越えて生きる』など、認知症ケア関連の拙訳書はすべて編集を担当していただいています。認知症ケア以外の分野も手がけていらっしゃいますか?

北川(以下敬称略):福祉関係のものは全般を扱っています。翻訳物では、発達障害やソーシャルワーク関連が多いですね。

寺田:私も原書を見つけて北川さんに企画を持ち込んでいますが、そのように翻訳家の持ち込みは多いですか?

北川:翻訳家ではなく、大学教授など、研究者からの持ち込みが多いです。ご自分の授業のテキストに使いたいなどの理由で、持ち込んでこられます。そこで私が原書と企画を確認したうえで、ふさわしい出版社に提案します。

寺田:そうなんですね。考えてみれば、『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』も、監訳者の高橋誠一先生が持ち込んだ企画でしたね。私の場合はそれで翻訳をさせていただくことになったのですが、通常は持ち込んだ先生ご本人が翻訳されるんですか?

北川:はい。こちらから下訳を外注で翻訳家に出すということはあまりないですね。たいていはそれまでに翻訳経験のある先生で、ご自分が興味のある原書を持ち込んでこられます。ご自分で訳す以外にも、お弟子さん、つまりその分野を専門に学んでいる若手の研究者の方に翻訳を任せて、ご自分が監修する場合もあります。

寺田:先生方はその分野の専門家ではありますが、語学の専門家ではないわけですよね。そうすると、訳文のクオリティとして「これはちょっと……」ということもあるのではないでしょうか?

北川:実際、そういう場合もありますが、専門書なので内容の正確さ重視の部分があります。日本語的なクオリティはこちらで手を入れてお戻しするなどで確保するというスタイルです。

寺田:それでも、翻訳家に任せようとはならないのですか?

北川:あらかじめ翻訳家の方がその分野に明るければ別です。認知症ケアなら寺田さんにお願いできる、とかね。こちらも、社会福祉や介護分野に詳しい翻訳家の方へのアクセスがわからないのです。

寺田:専門性が求められるとなると、一見、出版翻訳家を目指す方にとって介護や福祉関係は参入しづらい分野のようです。だけど、翻訳のクオリティがあれば、むしろ参入しやすい分野なのではと私は考えています。『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』を出版してから、「読みやすい」と反響をいただき、それが他の仕事にもつながっていきました。つまり、翻訳の専門家ではない方の出版物が多いからこそ、翻訳の評価が得られやすいのではと思うのですが、いかがですか?

北川:それはあるかもしれません。それに、介護や福祉の分野は、自分の生き方や世界観と重ねやすいのではないでしょうか。たとえば寺田さんの場合も、パーソンセンタードケアの翻訳書を出すだけでなく、研修をするなど、伝道者としての役割も担っていますよね? そういうふうに、自分の関心のあるものを翻訳を通して日本の社会にも広めたい、という方にとってはいいのではないでしょうか。

寺田:出版翻訳家にも、いろいろなパターンがあると思います。文芸や金融など分野も幅広いですし、四六時中翻訳だけをするスタイルもあれば、他の活動と組み合わせるスタイルもあります。どういう出版翻訳家になりたいかイメージできていない方も多いと思うのですが、自分の生き方や世界観と重なるものを見つけるのは幸せなことですし、そこを目指すのもひとつの考え方なのではないでしょうか。

北川:そうかもしれませんね。その分野に興味をもって現場での仕事をしていた方が翻訳をするようになったり、通訳をしていた方が翻訳を始めたりすることもあります。通訳の場合は、仕事を通してかなり専門知識が身につきますしね。

寺田:出版翻訳家になりたい方が、自分の関心のある分野を見つけて、そこからその分野の勉強をして参入していくこともできますね。

北川:そうですね。福祉の現場経験があったり、資格を取得して翻訳家になる、あるいは留学をしたのちに翻訳家になるルートもありますね。

※後編に続きます。

※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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