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第30回 編集者さんインタビュー~西村安曇さん(西村書店)後編

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

第29回に続き、編集者の西村安曇さんのインタビューをお届けします。

寺田:出版翻訳する原書は、ブックフェアで見つけることが多いのですか?

西村:海外のブックフェアにも行きますし、出版社が発行しているカタログや新刊紹介の情報誌、出版社のサイトもチェックします。出版社のメルマガも見ますね。以前に手がけた著者の新刊が出た際などは、翻訳エージェントも情報を送ってくれますし。エージェント主催の展示会もあったりします。最近では、大使館も積極的ですね。助成金をつけて自国の出版物を日本で出版翻訳しようという働きかけがあります。他にも、各種の賞を受賞した作品を一般の方が紹介しているブログがあって、そういう情報源にも目を通します。

寺田:そういう情報源の大半は、出版社でなくても、個人でもアクセスできるものですよね。

西村:はい。

寺田:これから手がけたい、求めている企画はありますか?

西村:身近な問題をふくめて、読者、とくに子どもたちや中高生が、なにかを考えるきっかけになる本でしょうかね……。いまの時代は、情報量にふりまわされてしまいがちです。ニュースの大小に関わらず、ネット上で文字になって目に入ってきてしまいますし。読者がきちんとした情報を得たり、正しく判断する力を培える本が必要だと思っています。

寺田:最後に、出版翻訳家を目指す方へのアドバイスをお願いします。

西村:出版翻訳するだけでなく、その本を売るためにできることをご自身でも考えてくださるとうれしいですね。いい本をつくるだけでなく、プラスアルファの何かが必要です。たとえばご自身の活動とか、趣味でもいいのですが、何かあって、その活動とつながる大切な本だから、そこで販売していくことができるとか。「いい本だ」というだけではなくて、その本の存在をどれだけ知ってもらえるかが大事なわけです。SNSも含め、翻訳家自身の発信力、アピールしていく力も問われてくると思います。

寺田:ビジネス書の分野では販売への影響力が重視されますが、西村書店のように文芸の分野で丁寧な本づくりをされている出版社でもそこが求められるのは意外でした。これからの出版翻訳家は提案力も必要になりそうですね。

 西村:翻訳をするだけではなく、その本を知ってもらうために一緒に何ができるかということですよね。たとえば原著者が来日することがあったとしたら、そこで通訳までできなくても、一緒にイベントに参加してくれるとか。それくらいの気持ちをもって持ち込みをしてほしいです。

 寺田:持ち込みにあたって気をつけてほしい点などはありますか?

西村:持ち込み先の出版社がどんな本を刊行しているのかを把握したうえで持ち込んでいただきたいですね。ただ単に「出版翻訳したいから」ということでまったく路線のちがうものを持ち込んでこられても……とは思います。もしかしたら、宝物がある可能性もありますが……。それと、既刊本と似たようなものは必要ないと思っています。類書があるから、売れるという考えもありますが、私はむしろ類書があるなら出版する必要はないと考えます。だけど同じテーマを扱っていたとしても、切り口の斬新さや意外性があれば話は別です。こちらが発掘しきれていないものを見つけて持ってきてくれると、「こんな本があったんだ!」という驚きや感動が生まれますよね。それと、翻訳経験がなくても、どういう方なのかを知りたいので、それがわかる経歴は添えていただきたいです。

持ち込みで出版翻訳された例をお持ちしました。

『アンナとわたりどり』は、実は、最初は別の絵本を持ち込まれたんです。ところが翻訳家の浜崎絵梨さんとお話するうちに、大好きな絵本として本書の話題になりました。ご自身が各地を転々とする生活をしていたことから、絵本の中の「わたりどり」にご自身の姿を重ねていると教えてくれて、「だったら、その本のほうがいいのでは?」となったのです。

寺田:個人的な思いや理由も大事なのですね。

西村:はい。また、本書のイラストを手がけているイザベル・アルスノーの『ジェーンとキツネとわたし』という作品をちょうど出版予定だったので、同じイラストレーターの作品を同時に刊行できることも後押しになりました。

寺田:タイミングも味方してくれたのですね。最後に、新刊紹介をお願いします。

西村:『言葉の色彩と魔法』

シリアの亡命作家シャミによる、ショートストーリー59編です。以前に同著者の代表作『夜の語り部』を翻訳してくださった松永美穂さんの訳です。

10月にはイベントもあります!

西村さん、ありがとうございました!

※西村書店の既刊本の詳細は公式サイトをご参照ください。

※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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