TRANSLATION

第29回 編集者さんインタビュー~西村安曇さん(西村書店)前編

Mariko Terada

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回の連載では、出版社の編集者さんからお話を伺います。企画の持ち込みを受ける側のお話から、持ち込む際のポイントを学んでいきましょう。

お訪ねしたのは、医学書を中心に芸術書、絵本、一般書を発行する西村書店。編集者の西村安曇さんがインタビューに応じてくださいました。主に絵本や児童書について、どんな企画が実際に出版翻訳に至っているのか、出版翻訳家に求められることなど、詳しく教えていただきました。

寺田:本日はよろしくお願いします。西村さんには、『なにか、わたしにできることは?』の企画を持ち込んだ際に応対していただきました。会社案内や既刊本を広げて「うちはこういう会社で……」と説明してくださり、私も「私はこういう者で……」とまるでお見合いのようでしたが(笑)、実際にそうやって持ち込まれる企画はどれくらいあるのでしょうか?

西村(以下敬称略):まず電話でお問い合わせをいただいてから原書と概要を送付していただくのですが、それが月に1件くらいでしょうか。年間で10件ほどですね。

寺田:そこでお断りするものと、出版を検討するものとが分かれるのでしょうが、どこを見て判断されていますか?

西村:第一印象が大きいですね。パッと表紙を見て何か惹かれるところがあると、手に取ってパラパラと中身を見ますね。海外のブックフェアでたくさんの本は目にしているのですが、見たことがない本があったりすると、その方がどうやってその本にたどり着いたのか知りたいですし、翻訳したい理由にも興味が湧きます。そうやって深く知りたいと思うと、実際にお会いすることになります。

寺田:その段階まで進めるのはどれくらいですか?

西村:お会いするところまで行くのは、年に2~3件でしょうか。そこから実際に出版されるのが1冊あるかないかだと思います。

寺田:かなり絞られますね。

西村:そうですね。かなり厳選しています。

寺田:編集者さんが気に入っても、社内会議でダメになる場合もありますよね?

西村:各人の好みの違いや、男女間での捉え方の違いなどはありますが、企画を通すということは、そういう相違を踏まえて、社内でも相手を説得していくことなので。

寺田:企画を持ち込んでくる翻訳家が新人で、経験がない場合もありますよね? そこで「いい本だから出版しよう」となったときに、出版はするけれど持ち込んできた人に翻訳を任せないこともあるのでしょうか?

西村:それはないですね。その方が見つけて、持ってきてくれたものなので……。ただ、美術書など専門書の場合、下訳をその方にしていただいて監訳をつけることはあります。また、翻訳スタイルについて、たとえば文体を変えてほしいなどの提案はします。「こういうふうに出して、売りたい」という出版社の意図を理解して対応していただくことになります。

寺田:誰に翻訳を依頼するかは、どうやって決めているんですか?

西村:基本的にはこれまでに頼んだことがある翻訳家にお願いしています。これまでにその方が手がけたものを参考にして、その方自身の興味と重なるかも考慮します。また、若手の翻訳家さんを育てる意味でも、紹介していただく場合もあります。

寺田:その方のお墨つきのお弟子さんということですよね。

西村:そうです。試訳も出していただいて、これなら大丈夫と判断したらお願いすることになります。

寺田:新しい翻訳家と知り合うきっかけは、そのような紹介が多いのですか?

西村:そうですね。お会いしたことがない方だと、不安な部分が多いので……。知っている人が間に入って、ご紹介いただくと、お互いにも安心感がありますね。

寺田:はじめてご一緒する方だと、難しいこともありますか?

西村:あたりまえのことかもしれませんが、一方的に自分の言いたいことだけを言うのではなく、疑問点や提案をやりとりしながら、お互いに納得したうえで本作りをしたいです。

寺田:そういうことも考えると、すでにお付き合いのある翻訳家からの持ち込みのほうが企画が通りやすいように思えてしまうのですが……。

西村:お互いのことをわかっているからこそ、そういうほうが通りやすいということはあるかもしれません。ですが、たとえ、今までお仕事をしていても、その本をどう売っていくかを考えたときに意見が合わない場合もあります。出版翻訳の場合、原書が海外ですでに出版されていますよね。少なくともその国では、出版する価値があると誰かに認められているわけです。だから、その本をどう読者に届けるのか、その気持ちをすり合わせることも大切です。

 

※後編に続きます。

※この連載では、読者の方からのご質問やご相談にお答えしていきます。こちら(私の主宰する日本読書療法学会のお問い合わせ欄になります)からご連絡いただければ、個別にお答えしていくほか、個人情報を出さない形で連載の中でご紹介していきます。リクエストもあわせて受け付けています。

Written by

記事を書いた人

Mariko Terada

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

END