TRANSLATION

第98回 出版社が倒産したら?①

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回は、なかなか知ることのできない生々しいお話を。

出版社が倒産したら、翻訳家はどうすればいいのか。そもそも倒産する前に何ができるのか、考えてみたいと思います。

編集者さんならともかく、翻訳家に出版社の経営状況はまずわからないものです。それでも「もしかして、危ないのかも?」という予兆はあります。

それは……印税が支払われなくなるのです(!)

それ以前に、重版になったことを教えてもらえなくなります。だって、教えてしまったら、印税を支払わなくてはいけませんから。翻訳家が知らなければ、払わずに済ませてしまえます。

通常は、重版になると翻訳家に通知があるとともに、献本があります。増刷された本が送られてきて、「よかった、よかった」と思うものですが……この通常のプロセスがなくなってしまうんですね。

私もある時、自分の講座の会場で翻訳書を販売していて、手に取った方が奥付をご覧になり、「〇月に〇刷になってるんですね」とおっしゃったのがきっかけで発覚しました。「え? 〇刷? 私が認識しているより2回も多く重版になってるんだけど……しかも〇月だったらとっくに印税も支払われているはずなんだけど……?」とびっくりしたのです。

「きっと何か手違いがあったのだろうな」と思い、出版社にご連絡して、この時はすぐに支払いがありました。ところが、また後日同様のことがあり、そして今度は支払いがされないのです。ご連絡するとお返事はあるものの、「確認して折り返しご連絡します」と言ったまま、待てど暮らせど折り返しはありません。何回かそういうことを繰り返し、結局社長さんに直接言わないとだめだとわかってからは、社長さんに催促するようになりました。

「出版翻訳家って、こんな借金取りみたいなことまでしないといけないのかしら……?」

そう思って悶々としておりました(多分、普通はしなくていいはずです……)。

こういう状態が続くと、さすがに経営状況が危ないという話も耳に入ってきますし、実感もあるのですが、その一方で慣れも出てきてしまうんですね。「危ない、危ないと言われているけれど、この調子で何とかなっていくんだろう」という低めの安定感が生じてしまうのです。そのため、予兆はあったとはいえ、実際に倒産してしまうと「寝耳に水」の気分でした。

社外の関係者から倒産の知らせを受けた時、はたと気づきました。

「この間の増刷分の印税、まだもらってないんだけど……」

そこでどうしたかについては、倒産までのプロセスですでにお話が長くなってしまったので、また次回にお伝えします!

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。どうぞよろしくお願いいたします。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

END