TRANSLATION

第146回 横のつながりはあるの?

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回は、こちらのご質問にお答えします。

「出版翻訳家同士の横のつながりって、あるんですか?」

出版翻訳家といっても、ミステリ、SF、ビジネス書、児童文学など、それぞれのジャンルごとに分かれてしまっているので、垣根を超えた交流は少ないものです。実用書よりは、文芸寄りのジャンルのほうが横のつながりがあるのではないでしょうか。アメリカ文学の場合なら、大学で教えている方が多いので、アカデミアでのつながりがあります。絵本の場合なら、読み聞かせなど子どもに関わる活動をされている方が多いので、そのグループでのつながりがあります。

個人のレベルでいえば、手がけるジャンルにもよりますし、性格も関係しますので、人それぞれだと思います。翻訳学校出身で、クラスメイトとの横のつながりが続いているという方もいるでしょう。

私は自分で主宰している学会があったり、継続している読書会があったりしますが、それ以外では各種の団体に所属したり、会に通ったりは特にしていないので、横のつながりはないほうだと思います。では、それで困るかといえば、特に困ることもないのです。

横のつながりを求めるのは、翻訳でわからないことを質問したいとか、業界内での情報交換をしたい、編集者さんや出版社を紹介してほしいなどが理由でしょう。

私が手がける認知症ケアの専門書の場合、調べものでわからないことがあったら、質問したい相手は翻訳家の仲間ではなく、医師や研究者なんですね。そこにアクセスできれば解決するのです。業界内の情報交換も、出版関係よりは介護関係の情報になってきます。編集者さんや出版社を紹介してほしい場合も、すでにある伝手をたどるか、「こういう実績があります」といって直接アプローチします。

そういうわけで特に横のつながりを求めることもないのですが、出版できるようになる前は、いろいろな勉強会に通っていました。「よくわからないけれど、何かにつながりそうな気がする」という場に出かけることは大事だと思います。実際、どこでどんな話が転がってくるかわかりませんし、自分のやりたいこととは一見離れているようでも、「ここはなんだか雰囲気がいいな」というところには通ってみるといいでしょう。

何のために横のつながりを求めるのかを把握しておくことも大切です。ひとりでコツコツとやる仕事なので、仲間がいると心強いという気持ちはわかります。だけどそれがプラスにばかり働くわけではありません。励まし合ったり情報交換をしたりして一緒にがんばっていけるならいいのですが、デビューできないと愚痴をこぼして慰め合っていたり、余計なしがらみに絡み取られたりして時間ばかり奪われてしまい、肝心の勉強が進まないのでは本末転倒になってしまいます。漠然とした不安感から横のつながりを求めている場合はそういう結果になりやすいので、自分の気持ちをまずは見つめてみてくださいね。

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※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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