TRANSLATION

第171回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート⑮

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

Jさんはもともと、「一生に1冊でも自分が翻訳した絵本を出せたらいいな」と思って勉強を始めたそうです。ところが、プロの翻訳家の方々から「自分で見つけた絵本を翻訳して出版できるなんて、99.99%ないわよ」と言われたり、難しいという話を何度も聞かされたりするうちに、気づけば絵本ではなく、児童書の原書を探して企画を通そうとするようになっていました。

そんな自分に、違和感を覚えるようになります。絵本を出したくて翻訳の勉強を始めたはずが本末転倒になっていたと気づき、あらためて絵本に戻ってきたところだったのです。こんな経験があるからこそ、『翻訳家になるための7つのステップ』冒頭の「そもそも論~どうして翻訳家になりたいの?」が心に響いたと言ってくれました。

翻訳学校に通って自信を失ってしまったり、勉強を続けているうちに暗くなってしまったりする話が本書にも登場しますが、Jさんの身近にも、周囲と比べて「自分はダメだ」と暗くなっている方がいらっしゃるそうです。デビューをして作品が店頭に並ぶなど、とても喜ばしい状況にあるはずなのに……。

Jさんはとても明るい方なのですが、こういう明るさも大切だと思います。物事の受け取り方が楽観的だと、前に進みやすくなるからです。また、物怖じせずにいろいろなところにアプローチしていく積極性があるのも強みです。Jさんの場合、キャラクターを活かしてあちこちに顔を出してみることがデビューにつながりそうな気がします。「いつもいるよね」という感じになると、「じゃあ、ちょっと頼もうかな」と話が回ってくるものです。

Jさんはいくつかの出版社のことを教えてくれたのですが、その中でA社が気になっているように感じられました。自覚はしていないけれどそこから出したい気持ちがあるように見受けられたので、A社にアプローチすることをおすすめしました。

すでに完成されていた企画書と試訳に加え、読み聞かせの動画をつくることも提案しました。というのも、Jさんは読み聞かせの活動をされているので、せっかくの特技を活かして、印象に残るようにしたいと考えたからです。

Jさんは早速、実際に読み聞かせの動画を作成しました。でも、原書が通常の絵本よりも文字が多いため、15分とかなり長くなったのに加え、データも大きくなってしまいます。そこで、動画の代わりに日本語版のファイルを作成しました。スキャンした画像に試訳のテキストを重ねて、データを用意したのです。

拝見したファイルはきれいに仕上がっていて、翻訳絵本が完成されたときのイメージも湧いてきます。これで、持ち込みの用意も整いました。

A社に関しては、Jさんは翻訳の窓口の方を紹介されたことがあり、以前にも別の企画をその方に持ち込んだことがあるそうです。通常ならその方にアプローチするところですが、今回の絵本は、例外です。というのも、JさんはもともとA社の社長さんと交流があるだけでなく、その交流も絵本の主人公となる動物に関するものなのです。

そこで、社長さんにアプローチすることをJさんに提案しました。決裁権があるほうが、話を進めやすいからです。決裁のプロセスが何重にもなっていたりすると、たとえ担当の編集者さんが気に入ってくれても、上に上げていって判断するまでに時間がかかるだけでなく、企画が潰されてしまうこともあります。

Jさんは社長さんと窓口の方に企画書と試訳、そして日本語版のファイルをお送りしました。ところが……次回に続きます!

※新刊『古典の効能』が発売になりました。

『心と体がラクになる読書セラピー』が発売中です。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

END