TRANSLATION

第207回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㊴

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

出版翻訳家デビューサポート企画レポートをお届けします。今回ご紹介するのは、初登場のSさんです。Sさんも英語の作品ではありませんが、出版翻訳としてのアプローチは変わりませんので、この企画でサポートさせていただいています。

Sさんが選んだのは、学術書です。学術書といっても専門家しか読みこなせないものではなく、現地調査の記録が豊富に盛り込まれた、一般読者にも楽しめるものです。専門的な内容を一般読者も楽しめる作品といえば、『居るのはつらいよ』『バッタを倒しにアフリカへ』『キリン解剖記』『聖なるズー』など、笑えるものからシリアスなものまで作風も幅広く、ヒット作も多数あります。私も個人的に大好きなジャンルで、原書の内容に興味をそそられました。

企画書を拝見すると、主な事項はまとまっているのですが、「日本で言うなら?」という視点が欠けていました。たとえば原書の定価を見ると、現地通貨で記載されているだけで、日本円だといくらになるのかが記載されていませんでした。もちろん、編集者さんが調べればすぐにわかることですが、そのひと手間を相手にかけさせてはいけません。そうしないと、「面倒だな」という印象を与えてしまいます。一箇所だけならまだしも、何箇所も「面倒だな」と感じるようでは、企画の魅力も大幅に落ちてしまうでしょう。

著者紹介においても、著者の研究者としての経歴や著作、論文などが紹介されているのですが、研究者としてしっかりとした業績がある方らしいとは伝わるものの、どんなポジションの方なのか、イメージがつかめません。

以前に、アンソニー・ファウチさんのことを説明するのに、「日本で言うなら尾身さん」とお伝えして、すんなり理解していただけたことがあります。普段からCNNなどをチェックしている方であれば「ファウチさん」と言うだけですぐにわかったでしょうが、まったく英語の情報に触れていない方を相手にする場合、そのような置き換えが必要になってくるのです。

原書は書評にも取り上げられたようで、〇〇新聞や××新聞に掲載されたと複数の媒体が記載されているものの、やはりどのような媒体なのかがわかりません。全国紙なのか、地方紙なのか、業界の専門紙なのか……どの程度の知名度や発行部数のある媒体なのかがわからないのですね。ここでもやはり、「日本で言うなら日経新聞」といった説明があるといいでしょう。また、企画書に盛り込む必要はないものの、どのような内容の書評なのか、翻訳したものを追加資料として用意しておくのがおすすめです。

Sさんにお話を伺うと、大学院で勉強される中でこの原書を読み、それがきっかけで著者の方とも交流されているとのこと。お世話になった先生で、本書が初の単著ということもあり、ぜひ日本で紹介したいと考えていらっしゃるそうです。そういう思いがあれば、きっと最後までやり遂げられるだろうなと感じました。

専門的な勉強をされているので、Sさんには専門知識の面での問題はないのですが、翻訳は初挑戦ということもあり、試訳には気になるところがありました。それは……次回の連載で!

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

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『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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