TRANSLATION

婉曲表現のご紹介(6)「お酒」

宮崎 伸治

出版翻訳家による和訳レッスン

今回は和訳レッスンを一休みし、「お酒」に関する婉曲表現をご紹介します。ぜひ肩の力を抜いてお読みください。

「お酒」を現す英語の婉曲表現は一度ですべてご紹介できないくらいたくさんあるのですが、今回はその一部をご紹介することにしましょう。

「お酒」に関する婉曲表現が多い理由は、お酒を楽しむ人が多い一方、お酒に否定的なイメージを持っている人も多いからだと思われます。お酒を楽しむ人は、遠回しな言い方をして、お酒に否定的なイメージを持っている人から非難されるのを避けているわけですね。

では、どのような婉曲表現があるか見てきましょう。

○drink

もともとは「液体を飲む」という意味だけで使われていましたが、15世紀くらいから「お酒を飲む」という意味でも使われるようになりました。

「お酒を飲む」ことを drink より上品な言い方をしたい場合は drink の代わりに imbibe を使うこともできます。

このdrink は動詞として「お酒を飲む」という意味でも使われますし、名詞として「お酒」という意味でも使われます。例えば、Would you like a drink? と聞かれれば、たいていの場合、「お酒を飲みませんか?」と誘われたと解釈されるでしょう。

○strong waters

直訳すれば「強い水」ですが、これで「アルコール飲料」という意味になります。

○water of life

直訳すれば「生命の水」となり、聖書では「(不滅の生命を与える)生命の水」という意味でも使われています。ただし、婉曲的に「ウイスキー」を表す言葉でもあります。

○firewater

直訳すれば「火の水」ですが、19世紀初頭から婉曲的にウイスキーやジン、ラムなどの「強い酒」を表す言葉として使われるようになりました。

○watering hole

もとともは動物が水を飲む「水たまり」のことを指していましたが、20世紀からは「ナイトクラブ」や「バー」を婉曲的に表す言葉として使われるようになりました。

○liquid refreshment

直訳すれば「液体の清涼剤」となりますが、英語圏では「アルコール飲料」を婉曲的に表す言葉として使われており、「liquid refreshmentを出します」と言われた場合にミルクやオレンジジュースが出されると「騙された」と感じる人が出てくるでしょう。

○liquid lunch

「アルコール主体の昼食」のことをこう言います。

○juice

日本語でいう「ジュース」とは「(アルコールを含まない)果実を絞った液汁」のことですが、英語の juice の定義は「果物、野菜、肉などの汁」のことであり、これにはアルコールが含まれているものも含まれます。また、婉曲表現として「酒」とか「ワイン」の意味で使われることもあります。

○joy juice

直訳すれば「楽しい」「ジュース」という意味ですが、「アルコール飲料」のことを婉曲的にこう言うこともできます。jungle juice といえば、「(特に自家製の)強い安酒」という意味になります。

○cough medicine, cough syrup

アルコール飲料を飲む言い訳としてもっとも使われるのが「医療目的で飲んでいる」です。ウイスキーやブランディーなどは喉の痛みを和らげる効果もあることから、こうした蒸留酒をcough medicineとかcough syrup ということがあります。

○gargle

gargle は動詞で使われれば「うがいをする」、名詞で使われれば「うがい薬」という意味ですが、婉曲表現として「酒を飲む」とか「酒」を意味することもあります。これもcough medicineやcough syrup と同様、喉の痛みを和らげる効果があるからです。

○lotion

lotionは「化粧水」「ローション」のことですが、快適なイメージがあるためか、これも婉曲表現として「アルコール飲料」のことを指すことがあります。

○restorative

restorativeは「健康食」とか「強壮剤」のことですが、婉曲的に「酒」のことを指すことがあります。一生懸命働いた後に restorative を勧められた場合、「酒」が出てくると解釈するのが自然です。

○reviver, a fortifying drink, something to fortify you

reviverの本来の意味は「活力を与えてくれるもの」ですが、これも「酒」を遠回しにいう表現として使われることがあります。意味が似た表現として a fortifying drinkとかsomething to fortify youも「酒」を意味する言葉として使われることがあります。

○eye-opener

直訳すれば「目を開くもの」ですが、一般的には「びっくりするような発見」という意味で使われます。人間、びっくりすれば目を大きく開ける習性がありますので、そこからこういう使い方をされているのです。ただ、この表現は「寝起きの酒」とか「朝酒」といった意味でも使われることがあります。寝ぼけているときに酒を飲めば一気に目が覚めることもあるからですね。

次回はまた和訳レッスンに戻ります。

拙書『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)が発売中です。出版翻訳家(およびその志望者)に向けた私のメッセージが詰まった本です。参考まで手に取っていただければ幸いです。

また、『自分を変える! 大人の学び方大全(仮)』(世界文化ブックス)が2021年12月刊行予定です。お楽しみに。

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記事を書いた人

宮崎 伸治

大学職員、英会話講師、産業翻訳家を経て、文筆家・出版翻訳家に。産業翻訳家としてはマニュアル、レポート、契約書、パンフレット、新聞記事、ビジネスレター、プレゼン資料等の和訳・英訳に携わる。
出版翻訳家としてはビジネス書、自己啓発書、伝記、心理学書、詩集等の和訳に携わる。
著訳書は60冊にのぼる。著書としての代表作に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)が、訳書としての代表作に『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)がある。
青山学院大学国際政治経済学部卒業、英シェフィールド大学大学院言語学研究科修士課程修了、金沢工業大学大学院工学研究科修士課程修了、慶應義塾大学文学部卒業、英ロンドン大学哲学部卒業および神学部サーティフィケート課程修了、日本大学法学部および商学部卒業。

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