TRANSLATION

婉曲表現のご紹介(12)「衣類および装飾」

宮崎 伸治

出版翻訳家による和訳レッスン

今回は和訳レッスンを一休みし、「衣類および装飾」に関連する婉曲表現をご紹介します。ぜひ肩の力を抜いてお読みください。

さて、(衣類や装飾に関しても婉曲的に言うことがあるの?)と思う人もいるでしょうが、探してみれば意外とあるものです。例えば、日本においても、ズボンのチャックが空いたままの男性を目にしたとき、「ズボンのチャックが空いていますよ」とストレートに言いがたいですよね。

日本語では「ズボンのチャックが空いていること」を婉曲的に「社会の窓があいている」と言いますが、中学生のときそれを初めて知り、「『ズボンのチャック』を『社会の窓』と言うなんて不思議だな」と思ったものです。しかし英語圏においてもストレートには言いにくいので婉曲的に表現します。それを見てみましょう。

○ fly(しばしばflies)

「チャック」を英語ではzipper といいますが、「(ズボンの)前チャックが開いている」というときはflyを使って表現します。flyは「飛ぶこと」という意味で使われることが多い単語ですが、これが「(ズボンの)前チャック」という意味でも使われるのです。Your fly’s open.で「君、社会の窓があいているよ」という意味になります。同じ意味で、Your fly’s are undone.またはYour fly’s are down.ともいいます。flyはfliesと複数形にして使うこともあります。

さて、ズボンの前チャックが開いたままになっているという原因は何でしょうか。開いたままになっているとことは、開けた後に閉めなかったことが原因であり、その第一候補がトイレ使用後でしょう。したがって英語圏では男性用トイレに次のような掲示が見られるそうです。試しにこの文章をそのまま検索エンジンに入れて検索してみると、そう書いてある掲示の写真がいくつか出てきました。

○ Please adjust your dress before leaving

直訳すれば、「去る前にあなたのドレスを調整しなさい」となりますが、これは「去る前にチャックを上げてください」を婉曲的に表したものになります。

女性の場合は「社会の窓があいているよ」と言われる心配はありませんが、かといって衣服で恥ずかしい思いをしないわけではありません。例えば、スカートの裾から下着がはみ出ていたら、やはり恥ずかしいですよね。ただ、やはり英語圏でもストレートにYour slip’s showing.と言うのはタブー視されており、It’s snowing down south. というそうです。直訳すれば「雪が南下しているよ」と言っていることになりますが、こういう理由はsnow(雪)の色が下着と同じ白だからです。

次に装飾に関する婉曲表現を見てみましょう。「かつら」と言えば、その英語相当語としてすぐに思いつくのがwigではないでしょうか。しかしこのwigという英単語、じつは英語圏の男性にとっては「恐ろしい単語」でもあるのです。なぜかと言えば、wigは「つるっぱげ」が連想される言葉だからだそうです。そういうわけでこれを婉曲的にいう言葉があります。それを見てみましょう。

○ toupee

今では英語辞典にも載っており、その定義として「(男性用)はげ隠しの入れ毛、かつら」とあります。この単語はもともとフランス語で18世紀に「かつらの頭頂につけた派手な巻き毛」を指す言葉として導入されたものですが、20世紀に入ると、「頭頂部を隠す小さなカツラ」を意味するようになりました。

○ hairpeice

この言葉は「ヘアピース、入れ毛」という意味ですが、婉曲的に「かつら」の意味でも使われます。

○ rug

これは「(床の一部に敷く)敷物」のことですが、「男性用かつら」の意味としても使われます。

○ divot

これは「ゴルフでストロークしたときにクラブヘッドで削り取られた芝生の一片」のことを指す用語で日本語でもゴルフ用語として「ディボット」と言いますが、「男性用かつら」のことを婉曲的にこういうこともあります。

「白髪染め」も婉曲的に言ったほうがよさそうな言葉ですよね。英語圏でダイレクトに言うとすれば、dyeing of grey and white hairですが、これを婉曲的に表現する言葉があります。それを見てみましょう。

○ rinse

日本語の「リンス」からも想像できると思いますが、rinseは「ゆすぐ」「きれいにする」といった意味の言葉ですが、「髪を染める」という意味の婉曲表現としても使われます。

○ tint

これは「染める」という意味ですが、dyeの代わりに使われることがあります。

○ touch up

美容室で「タッチアップ」とは「簡単なメイク直し」の意味で使われるようですが、これも「白髪染め」を婉曲的に表現する言葉として使われることがあります。

以上、今回は「衣類および装飾」に関する婉曲表現をいくつかご紹介してみました。

 

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記事を書いた人

宮崎 伸治

大学職員、英会話講師、産業翻訳家を経て、文筆家・出版翻訳家に。産業翻訳家としてはマニュアル、レポート、契約書、パンフレット、新聞記事、ビジネスレター、プレゼン資料等の和訳・英訳に携わる。
出版翻訳家としてはビジネス書、自己啓発書、伝記、心理学書、詩集等の和訳に携わる。
著訳書は60冊にのぼる。著書としての代表作に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)が、訳書としての代表作に『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)がある。
青山学院大学国際政治経済学部卒業、英シェフィールド大学大学院言語学研究科修士課程修了、金沢工業大学大学院工学研究科修士課程修了、慶應義塾大学文学部卒業、英ロンドン大学哲学部卒業および神学部サーティフィケート課程修了、日本大学法学部および商学部卒業。

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