INTERPRETATION

Vol.50 「Give, give, give, give, and you will be given」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】

小熊弥生さん Yayoi Oguma

私立実践女子短期大学国文科卒業後。英語は決して得意科目ではなかったにも関わらず努力の結果、新卒で某大手英会話スクールの主任講師として採用される。並行してインタースクールで通翻訳のトレーニングを積み、23歳で通訳者となる。数社のインハウス経験を経て、2010年より本格的にフリーランス通訳者としてご活躍。現在、某TV番組にも通訳者としてレギュラー出演中。

Q1、語学にご興味をもたれたきっかけは?

高校時代、英語の教育実習の先生に憧れたのがきっかけです。シンガポールで生活していた方で、ネイティブみたいでした。さらに、日本人で、女性で、シングルマザーでとにかく格好よかったですね。

そこで語学に興味を持ちはじめました。でもその頃は、今と違い受け身な性格だったので、当時の一番の親友が、英会話学校に通おう、と誘ってくれたので、行動に移すことができました。

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Q2、学生時代は、英語が苦手だったとお聞きしていますが、通訳者になられるまでの道のりを教えていただけますか?

高校時代に英語に興味は持ちましたが、大学時代TOEICのスコアは300点もいかないくらいの大の苦手でした。それでも、大学を卒業したら日本と海外を結ぶ架け橋になりたいという夢があって、それにはやはり通訳がいいだろうと思いました。でもそのためには、もっと英語を勉強しなければと感じ、短大卒業後は、ホテルの夜勤など3つのアルバイトを掛け持ちしながら朝6時に仕事を終え、仮眠後に、英語の学校に半年通いました。当時から、元気が取り柄でしたから(笑)

そして半年後、二回目のTOEICテストは800点を超えていたんですよ。私もびっくりして、一体何が起きたのかわかりませんでした。感動してすぐにしたことが、転職情報誌を買って求人情報チェックです。

TOEIC800点で何ができるのかな~と思い、見つけたのが、大手英会話スクール講師の仕事でした。もう、「これだ!!!」と思って、すぐに応募したら、筆記試験のあとにいきなりデモレッスンをすることになりました。でも、英語の学校へ行ったばかりだった私は、先生がしていた通りにやってみたところ、無事合格させていただくことができました。本当に感謝ですね。

講師になってからは、さらに忙しい日々になりました。英検は4級しか持っていなかった私が、準1級や受験英語のクラスを担当するわけですから、授業が終わって、終電で帰ると朝4時までジョナサンに行って猛勉強です。必死に予習してテキストに書き込みをしていました。

そんな生活を一年半続けていたら、TOEICのスコアは950点になり、英検は一級に合格。「よしっ!!これで、やっと通訳学校に通える!」と思い、インタースクールに通いはじめました。

Q3、若干23歳で通訳者になられたわけですが、その頃の御苦労や失敗談ありましたら教えてください。

一番最初に通訳者としてお仕事をさせていただいた企業に10人くらい通訳者さんがいて、そのうち8人が帰国子女の方でした。純国産通訳者は私と東大卒の方だけ、会社の受付の方まで帰国子女という環境でした。

そんな中、たった三年しか日本で勉強していなかった私は、前職の方が一瞬で終わらせることができる仕事を全然終わらせられませんでした。翻訳も間違いだらけで、ネイティブの方から、あれはダメ、これはダメと言われてしまう状況でした。努力で補おうとしても、どんなに頑張っても何年英語付けになった人との差が埋められず、付け焼刃の自分の英語力では全然駄目だ・・・と大きな挫折感に襲われました。

ちょうどそのころに新聞で、「スーパー・インフォーメーション・ハイウェイ構想」の文字を見つけました。インターネット時代の到来です。それを見たときに、純国産の自分が帰国子女に勝つには、勉強しかない!技術通訳を学ぶしかない!と思い立ち、技術分野の企業に転職をし、その後5年間知識を磨きながら、技術通訳者として経験を積ませていただき、通訳者としてのベースが出来上がったと思います。

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Q4、通訳の面白さを感じるのはどんなところでしょうか?

色々な業界で活躍されている様々な方々にお会いできるということが、私にとっては一番嬉しいことです。

誰もが知る有名作家さんから、短編小説と長編小説の案が降ってくるときの感覚の違いをお聞きできたり、誰もが知る有名時計ブランドの会長から、製品の誕生秘話をお聞きできたり、ノーベル賞受賞者の方のお話をお伺いできたり。その方々から突破口を超えるための秘訣のようなものを、ちょっとした瞬間に垣間見ることができるということが本当に貴重です。もう言葉にならないというか、「うわぁ~~~!」という感じです。成功している方のリアルな波動を感じて、エネルギーをいただいて、伝授していただけるということが、私にとっては通訳をやっていて良かったと思う瞬間です。

Q5、通訳者としてTVにレギュラー出演されていますが?

TV番組に出演させていただいて、自分の考えが甘かったと気がつかせていただきました。

お笑い芸人の方々のプロ意識の高さは、私のそれとは雲泥の差です。命がけで衝撃映像などをとってくるパワーがすごい。私の席と芸能人の方々との席は離れているのですが、バンバンエネルギーが伝わってきます。

TV越しに人に訴えるというのは、とんでもないパワーがないとできないのですね。

ひれ伏すというか、心底感動しました。それを味わえるお仕事にご縁をいただけたことは本当に感謝です。

余談ですが、インターネットでも、You tubeでも番組名と名前を入れると、良いも悪いも沢山のコメントがでてきます。「あいつは絶対見たことがある!役者だぞ!!」とか。私は役者じゃない~!っと言いたくなりますね(笑)

(※小熊さんは現在、フジテレビ(株)世界衝撃映像社(毎週土曜日19時)にレギュラーご出演中です。)

Q6、小熊さんの将来の夢は何でしょうか?

将来の夢は、いつかベストセラーの本を出版することです!誰もトンネルの時期ってありますよね。私にもあります。通訳者になってからはもちろんですが、実は、自分でビジネスをしていた時期もあって、そこでは色々な浮き沈みがありました。そういった自分の経験を交えて、トンネルは絶対終わるよ、大丈夫!ということを少しでも表現できたらいいな、と思っています。ジャンヌダルクの絵画みたいに、旗を振って、あんなに力強い存在になれたら嬉しいですね。

今考えているのは、通訳での失敗談、面白いエピソードを色々集めた本です。先日、他の通訳者さんとも話していたのですが、ある映画のタイトルをもじって”Laughter in translation(トランスレーションの中の笑い)”という題にしたら面白いかなと思っています。通訳での失敗は、お客様の手前、絶対に言えないものなのですが、今まで泥臭くやってきた私になら書けると思うんです。一般の英語で苦労されている方も、「通訳でもこんな間違いがあるんだ」と感じていただけて、失敗から楽しく学べたら、日本の英語力アップにもつながっていくのではないかと思います。しかも面白くて、売れてくれればいいかなぁと(笑)とはいえ、無名のまま自叙伝を書いても誰も読んでくれませんから、大気圏を突き抜けるくらい、自分が認められる存在にならなければと感じています。

もう一つの夢は、ダボス会議で通訳をさせていただくことです。世界中の経済・企業のトップが集まって、一年の経済動向が最も決まるのがダボス会議です。もともとは、スイスのジュネーブ大学の教授が、「非公式で話合ったらもっと話易くなるんじゃないか、そうしたら世の中がもっと早く進むのではないか?」と始めた会議なのですが、それが来年40周年を迎えます。もっともっとたくさんの経験を積んで、いつか森羅万象を理解できる通訳者になれたら、ダボス会議を一度でいいから通訳させていただきたいというのが、私のもう一つの夢です。

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Q7、忙しいときのリフレッシュ方法があったら教えてください。

以前はダンスをしていたのですが、1日90分は時間が取られてしまうので、今はあまりできていない状況です。実は、1ヶ月の中でお休みが1日だけだったり、1日で20時間お仕事をさせていただくこともあるので、時間はとても貴重です。最近は、パワープレートというものがあって、振動する台の上で筋トレをします。そうすると、地上でやるよりも何千回も多くやったことになり、脳にも振動を与えるので、すっきりとするんです。あとは、エステに行ったり、主人に話を聞いてもらうことでしょうか。これが三大リフレッシュ法です。

Q8、それだけお忙しくされていると、睡眠不足にはなりませんか?

時には十分な睡眠がとれない場合もあります。そんなときには、脳のサプリメントやコーヒーを飲んだりアンメルツヨコヨコみたいなクリームを顔に塗ってしまったりして、寝ないようにします。

でも、ブースの通訳など脳に負荷の大きいお仕事の前には、8時間しっかりと寝ることも仕事の一部だと思っています。必ずそれぞれのお仕事に必要な準備時間は計算に入れるようにしています。

Q9、最後に通訳者を目指されている方々へアドバイスをお願いします。

通訳者ということであれば、私はまだまだひよっ子です。何の情報でも、いつ役立つかわからないので常に好奇心を持って、どんなところでも何かを吸収するという気持ちが大切だと思います。

成功している人をモデルする。うまくいっている人から教えていただく。私はお客様から常にリピートをもらっていらっしゃる通訳者の先輩や自分のほしい能力を持っている方には、どうやっているのですか?と聞きます。盗むよりも聞いた方がいいですね。やはり感謝をすることが大切だと思います。

そして、自分からも与えられるものがあるなら、やはり何かの形で返せるようにしたいですね。通訳学校へ通うと、生徒さんがみんなライバルに見えるときがあるじゃないですか。でも、それは10年後の自分の同僚なんですよね。だから、やっぱりそこでも助け合い、また切磋琢磨することだと思います。

エージェントに対しても同じ気持ちです。自分が知ったことは伝えて、相手が知ったことは伝えてもらえるような分かち合いの関係を構築していくことが大事だと思います。

“Give, give, give, give, and you will be given”

気がついたら、与えられているということだと思います。360度営業ですね(笑)

あとは、チャンスがきたらノーとは言わないことです。私は、どんなお仕事でも予定がどうしても合わないもの以外は、ノーと言ったことがありません。その話がくるということは神様があなたにそれをやっていいですよ、と言ってくれているのだと思います。もちろん、準備もせずにこんな言葉も知らないの?という状況でやってきて、全力も尽くさないのではだめです。

200%の準備をして、前のめりで死ぬ覚悟でやれば絶対できる。それでも失敗したら何かわしづかみにして、そこから学んでまた前に進めばいいんですよ。私にももちろん沢山の失敗があります。それはいつか本にしたいと思っています(笑)

編集後記:

今回のインタビューは、小熊さんの出し惜しみのない明るさ、パワーに元気を沢山いただきました。

インタビュー後に、小熊さんが教えてくれた成功の秘訣は、目標はすぐに紙に書き出すことだそうです。

さらに、そのイメージを写真や雑誌の切り抜きを使ってコラージュした宝地図を作り、部屋の良く見えるところに貼ることで、現実化するのがさらに早くなるとのこと!小熊さんにとっては、夢も目標も叶えるためにあるものなのだと、感じました。いつも私たちエージェントや、お仕事先でも細やかなお気遣いをありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

<小熊さんの宝地図>

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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