INTERPRETATION

第16回 チャット通訳

寺田 真理子

マリコがゆく

「チャットの通訳をお願いします」

そんな変わりダネのご依頼をいただいたことがあります。社内通訳をしていた時のこと、「アメリカ本社の重役が世界各国の支社からの質問にチャットで答える」という企画がありました。

「チャットって・・・もしかしてめちゃめちゃ早いんじゃないの?」

それがまず最初に心配になりました。怒涛のキータッチなんかされちゃったら、ついていけるかしら?それにそもそも、画面を見ながらチャットを通訳するって、どんな感じなんでしょうか?

想像がつかないまま、とりあえず事前に出た質問リストだけをもらって本番に臨みました。会場には40名ほどの参加者がいたんですが、チャットで答えるのが本社の重役とあって、当然こちらも重役クラスオンリーです。なれない形態の通訳に、更にプレッシャーがかかります。会場前方にはスクリーンが用意されていて、そこにチャットの様子が映し出されるとのこと。

そのスクリーンを見ながら通訳してほしいと言われたのですが、あまりにもやりにくそうです。そこで、代わりにPCの画面を見ながら通訳するようにしてもらいました。もうひとりの社内通訳さんと一緒に、PCにくっつくようにして通訳していきます。

心配していた怒涛のキータッチはなく、スピードはそれほどでもなかったものの、PCの画面を見ながら通訳するって、とってもやりにくいです・・・

だって、通訳って、聞こえたものを通訳するようにできているんですよね。もちろん、原稿がある場合に備えての練習もしていますし、サイトラっていう技術だって当然あるわけです。でもその場合、あくまでも「原稿は手元にある」のが前提。そこでスラッシュを入れたりしながら読んでいけるんです。PCの画面じゃ、書き込みなんてできないし。どこまで訳したかもわからなくなっちゃいます。

誰か、これ、読み上げて!

プチギレしながら、乱視の相方通訳さんと超近視のわたしは画面にくっついて通訳していたのでした。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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