INTERPRETATION

第39回 旅行のときもお抱え通訳

寺田 真理子

マリコがゆく

「右足はいいんですけど、左足がきついみたいです。もう1サイズ大きいのはありますか?」
「この形、いいですね。他の色もありますか?」

わたしが通訳をするのは、仕事のときばかりじゃありません。プライベートでも、母と海外旅行に行ったりすると、専属通訳として買い物のお供をします。

「なんだかこれじゃ、仕事に来てるみたいな気がする・・・」

そう思っても、お店の外に出た途端にそんな考えは吹っ飛びます。なにしろ、わたしは超方向音痴。駅から5分のところを30分以上迷った挙句、地図をぐるぐる回してパニックになり、挙句の果てに半泣きでタクシーをつかまえて無理やり連れて行ってもらうツワモノです。

運転手さん:「これ、すぐそこですよ」
マリコ:「わかってます!でも辿り着けないんです!頼むから連れて行ってください!!」

そんな会話が何度交わされたことか・・・。

そんなわたしが、海外をひとりで歩けるわけがありません。地図をもらっても読めないので、母の道案内に嬉々としてついていきます。そして別のお店へ・・・。

「これ、デザインはいいんですけど、サイズが大きすぎて残念ね」
「たしかにきれいだけど、ちょっと派手過ぎるみたい」

なんではるばるこんなところに来てまでわたしは仕事を・・・と思い始めたころ、お店の外へ。方向音痴を自覚し、また嬉々として道案内に従い、別のお店へ・・・以下リピートです。

でも、それだけじゃありません。ホテルの受付なんかで話が通じない日本人がいたりすると、頼まれもしないのに勝手に割り込んでいきなり通訳し始めます。

「あ、お困りですか?よろしかったら通訳しましょうか?」

普段は重い腰が動きます。そして、お返事をいただかなくても、通訳してしまいます。

「受付のこの方、○○さんていうお名前だそうですよ。あ、一緒に撮ったお写真を送りたいんですね。じゃあ、メールアドレスを書いていただきましょう。あ、あなたのお名前もお教えしといたほうがいいですよ。紙とペンありますよ、どうぞ」

仕切った挙句、「良いことをした」と満足します。

結局、通訳したかったんですね・・・。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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