INTERPRETATION

第56回 社内通訳とフリーランス通訳-その4

寺田 真理子

マリコがゆく

いいことがたくさんあるように思える社内通訳。でも、もちろん、困ったところもあります。さて、どんなところでしょう?

まず、「社内通訳」というくらいですから、「社内」の人間なんですよね。フリーランスの通訳者に時々見られるような、「ワタクシ、通訳ですから関係ございません。勝手にあそばせ。ツン!」なんて態度をとるわけにはいきません。

会社って、どうしても細々とした面倒な手続きがつきものなんですよね。何かを申請するためにいろんな部署に連絡をとったり、書類を記入したり。ややこしい人間関係だって、まとめて引き受けなきゃいけません。「今日は誰とランチに行ったらいいんだろう」とか、そんな悩みももれなくついてきます。組織に所属する人間としての諸々があるんですよね。まあ、それもお給料のうちっていうことでしょう。

でも・・・通訳者って、あまり社会適合性がなかったりしませんか?あの、わたしだけじゃないですよね?ひとつの組織に所属するっていう、そのこと自体が苦痛になっちゃうんですよね。

しかも、通訳として脳を使っていると、なんだかその他の部分が退化してしまう気がします。よく、大学教授や技術者が、かなり社会性が欠落していることがあるでしょう?それに近いものがあります。なんていうことのない、ちょっとした社内の手続きひとつでも、それがものすごくストレスになってしまうんです。

そして、長く同じ社内にいると、飽きてくるのも否定できません。更に困ったことに、「文脈に頼って」通訳するようになっちゃうんですよね。純粋に言葉として理解できるんじゃなくて、「背景事情がわかるから通訳できる」という状態になってしまいます。

実際には、そういう事情がわかってはじめてちゃんと通訳ができるということも多いもの。雇う側にしたって、こういう通訳者は事情をわかってくれているありがたい人材です。でも、これって、通訳者本人にとってはちょっと困った事態です。

「ここでは通訳者として評価してもらえるけど、他のところで通用するのかな?」

そんな不安に駆られます。

それに、もっと困ったことがあるのです・・・。

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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