TRANSLATION

第189回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉛

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

今回は、「第178回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉑」でご紹介した医師のYさんの進捗をレポートします。

A社の編集者さんからYさんにご連絡がありましたが、復刊するには弱いかもしれないという内容でした。「復刊」と言及しているのは、旧版の翻訳書が30年ほど前にA社から出ているためです。

最終的なお答えをお待ちしますとYさんからはお伝えしたものの、ご連絡がないまま1か月が経過しました。「今にして思えば、もしかしたら前回のお返事が最終的なお答えだったのではないか」とYさんから私にご相談がありました。

判断が難しいところですが、もう一押ししてみてもいいのではと考え、その際に編集者さんに伝えたいいくつかのポイントをYさんに説明しました。

まずは、「背景としての市場の変化」です。旧版の翻訳書の売れ行きを編集者さんが調べたところ、当時は思ったより売れていなかったことが「復刊するには弱い」という判断につながったそうです。だけど、30年前と今とでは社会状況もかなり変わっています。コロナ禍での医療に対する見方や死生観の変化から、本書が注目される素地ができていることを訴えます。

続いて、「販路や告知媒体があることのアピール」です。翻訳を手がけるYさん自身が本書の分野を専門とする医師であるため、発売後には医師会などをはじめ医療関係者に広く告知することができるほか、医学情報誌でも掲載されることをアピールします。

これらのポイントを編集者さんにアピールすることで、要は「ちゃんと売れますよ」と伝えたいのです。「だから、こういう事情を踏まえて検討してくださいね」と。

ただし、Yさんには、もうひとつ付け加えるようにお伝えしました。それは「A社で書籍化できるのが理想ではあるものの、もしA社では実現の見込みが薄く、他社に相談したほうがいい場合にはそう教えてほしい」ということです。お返事がないと、検討していただけているのかどうかわかりませんし、他社に持っていくこともできません。そういう宙ぶらりんの状態になってしまうのを防ぐためです。

とはいえ、これを付け加えるのは諸刃の剣のようなものなんですよね。「それなら他社にどうぞ」ということにもなりかねませんし……。自分の望まない選択肢をあえて自分から提示する必要はないとも思うのです。ただ、Yさんの場合は、これまでやり取りをしてある程度すでに待っていたことも考え、付け加えることにしました。

すると、編集者さんからお返事がありました。その内容は……次回に続きます!

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


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