INTERPRETATION

第414回 転んでもタダでは起きない

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

イギリス旅行からゴキゲンで帰国して数日後。なぜか右の肘が痛むようになりました。

どこかにぶつけたのかしら?
記憶をたどるものの、思い出せず。
腰から下にかけての一連の筋肉痛や関節炎で、とうとう上半身にも痛みが出たのかなあと思いました。

ところが今度は右手で物をつかむだけで痛むように。スタバでマグカップを持つも、思わず顔をしかめてしまいました。
早速整形外科へ。診察結果は「テニス肘」。生まれて初めてかかりました。
何が直接的な原因かは思い当たらないのですが、唯一考えられるものとしては、数週間前にジムのバーベルが入れ替わり、若干重くなったということぐらいです。あるいは、旅行の疲れとか?

せっかくなので、「テニス肘」を辞書で引いてみました。
・・・そのまんま、tennis elbowでした!
いや、でももっと専門的な語があるはず。通訳者泣かせのラテン語系医学用語が存在すると思い、ネットで調べたところ、こちらのページが出てきました:
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/tennis-elbow/symptoms-causes/syc-20351987

正式にはlateral epicondylitisと言うそうです。lateralは「側面の」というラテン語語源のことば、epicondylitisは「上顆炎(じょうかえん)」です。「上顆」はepicondyleで、epi(上)、condyleは「顆」(knuckleの語源)、-itisは「炎症」のことです。いずれもギリシャ語から来ています。

なお、整形外科医からは「ストレッチをきちんとするように」「痛みが引くまでは運動を控えるように」と言われました。うーん、ジム通いも仕事のうちと思う私にとって、ドクターストップはツライのですが、これ以上、悪化させないためにも仕方ありません。物を持つ運動以外であればOKとのことですので、ストレッチ系のクラスに出ることとします。

何にしても、テニス肘になったおかげで新しい単語に出会えました。

でも、こうした調べ物でキーボード打ちをひたすらすればするほど、テニス肘には悪いのですよね。ただ、これも職業病です。

(2019年10月1日)

【今週の一冊】

「最強のスポーツビジネス」池田純/スポーツ・グラフィック・ナンバー編、文春新書、2018年

ラグビー・ワールド・カップ、大いに盛り上がっていますね。CNNのWorld Sportでも連日取り上げられています。とりわけ日本チームの躍進が称えられており、うれしい限りです。

今回ご紹介するのは、スポーツに関する一冊。元・選手だけでなく、運営に携わる方から建築家に至るまで、幅広い視点からスポーツビジネスをとらえています。もちろん、ラグビーに関する話題もあります。

中でも印象的だったのが、柔道・全日本男子監督である井上康生さんのインタビューです。実は私自身、現役時代の井上氏の活躍はあまり見ていなかったのですが、8月に日本で行われた世界選手権で日本が健闘するのをテレビで観て以来、注目してきました。

本書の中で井上監督は次のように述べています:
「人間力の向上なくして競技力の向上はありません。内面はもちろん、対人を意識することも求めました。身だしなみ、コミュニケーション力、言葉使い、評価は人からされて初めて『評価』となることを意識しながらアドバイスしました。」

選手たちにこう語った監督。この考え方はあらゆる仕事にも通じると私は考えます。また井上監督は、柔道というのが何となく一般の人々にとって敷居が高いがゆえに、今後は健康や生涯スポーツの観点から楽しめる部分を打ち出したいとも述べています。

スポーツもどんどん進化していることが本書からわかります。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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