TRANSLATION

第75回 出版翻訳家と営業

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

おかげさまで、昨日から全国の書店さんにも『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が並び始めました。

本が完成したら出版翻訳家の仕事はそれでもうおしまい……ではありません! 1日に発売される新刊書籍は200冊以上と言われます。何もしなければ、多数の本の中に埋もれてしまいます。第30回の西村安曇さんのインタビュー第33回の越前敏弥さんのインタビューでもお話があったように、本の存在を知っていただくための努力は欠かせないのです。

では、出版翻訳家として、営業にどう貢献できるのでしょう? 今回の連載では、そこを具体的に見ていきます。

まずは、出版記念トークショーやサイン会などのイベントです。イベントの場で本について話をすることで、より深く知っていただけますし、愛着を持っていただけます。また、イベントの告知自体が、本の存在を知る機会につながるでしょう(ちなみに本書のイベントは、いまのところ秋以降に開催予定ですので、詳細が確定したらご案内しますね)。

続いて、献本があります。献本とは、雑誌などのメディアをはじめ、ご紹介くださる方々に本をお送りすることです。私もよく献本をいただくのですが、慣れてしまうと、本ができるまでがいかに大変かわかっていながらも、感覚が麻痺してしまう部分があります。まして毎日何冊も献本を受け取る方であれば、もはやDMのような感覚になってしまうと思うのです。

そこで私がやっているのが、できる限りお会いしてお渡しすること。通常は出版社から直接お送りすることが多いのですが、私はお会いするか、そうでなければ自分でお送りします。その際、宛名は必ず手書きにします。印字されたものが大半ですから、手書きでだとそれだけで「自分宛てに送られてきた」と感じられるからです。そして、文面にも手書きでメッセージを添えるようにしています。時間も手間もかかりますが、お一人おひとりにカスタマイズしてお届けすることが大切だと考えてのことです。

つい先日いただいた献本では、編集者さんが万年筆で私の名前を手書きして、名刺も添えてありました。しかも、万年筆の色は珍しいピーコックグリーン。名刺を留めていたクリップも動物の形のおしゃれなものでした。珍しいので目を引きましたし、細かいところに気のつく方なのだろうなと印象に残りました。やはりひと手間かけることの違いを受け手側として実感しました。

献本に加え、ブログやその他SNSでの告知も行います。私はSNSを熱心にやるタイプではないのでブログでのお知らせが主ですが、自分のメディアを持っておくことをおすすめします。

基本的な事柄は以上ですが、他にも、本を置いてくださっている書店で書店員さんにご挨拶をしたり、書店営業に同行したりもします。最初の拙訳書『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』の時は、認知症関係の映画監督にお会いしに行ったり、映画館に本のチラシを置いてくれるよう頼んだり、新聞記事で知った団体の方にお会いしに行ったり、本を読者プレゼントに使っているタウン誌の編集部に「この本を使いませんか」と持ち込んだり、少しでも関係のありそうなところに飛び込み営業をしていました。空振りに終わることも多いのですが、中には、いまに至るまで長いご縁をいただいた方もいらっしゃいます。

スタンスは人それぞれですし、営業は一切せずに翻訳に徹して、その分多くの翻訳をこなしたいという方もいらっしゃるでしょう。どこまでするのが自分にとって快適なのかもありますし。ただ、人には恩人ならぬ恩書があって、本の存在を心の底からありがたく思ってくれる読者の方がいらっしゃるものです。どこでどう出逢っていただけるかわからないので、少しでもそのきっかけになれるなら、打てる手は打っていきたいと思うのです。

『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』、発売中です! どうぞよろしくお願いいたします。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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