TRANSLATION

第181回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉓

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

C社に持ち込むためにIさんがアップデートした企画書は、この連載でお伝えしているスタイルとは、かなり違うものになっていました。

この連載では、忙しい編集者さんに目を通していただきやすいように、企画書は1~2ページでまとめるようにお伝えしています。だけどIさんの企画書は写真をダイナミックに挿入した結果、計5ページになってしまったのです。

これには、Iさんなりの思い入れがありました。自分が原書に惚れ込んだきっかけは、このアーティストの作品写真を目にしたことだと気づいたのです。だから、たとえ企画が通らなくても写真だけは絶対に見てもらえるように、参考資料ではなく、企画書に挿入したのです。

ページ数が増えたことで、編集者さんに見てもらえないかもしれないとIさんは心配されていました。でも拝見したところ、5ページといっても写真が大半のため、文字が詰まったものと違って分量を感じませんでした。

作品が入ったほうが、たしかにインパクトがありますし、独自性を伝えられます。「もしご縁がある編集者さんであれば、写真を気に入ってもらえるんじゃないかな?」とIさんは考えたそうですが、ビジュアルがあることで、ピンとくる方にはピンとくるかもしれません。

そこで、この企画書でC社に持ち込むことにしました。C社の編集者さんには私が面識があったので、Iさんの持ち込み企画をご検討いただきたいと、私のほうからご連絡をしました。

その際、アーティストの評伝があること、絵本も出ていること、その絵本がC社から刊行されている作品に通じるものがあること、そしてIさんに翻訳実績があることをあわせてお伝えしました。

ご検討いただけるとご連絡があったので、企画書と資料一式をお送りしました。それから2週間ほどでお返事があったのですが、残念ながら、刊行は見送りたいとのことでした。

アーティストには興味を持っていただけたものの、現在の出版市場において制作コストと販売との兼ね合いを考えると難しいとのこと。

結果は残念でしたが、私にだけでなくIさんにも編集者さんから直接ご連絡があり、きちんと理由を説明いただいたそうで、Iさんも納得されていました。

というわけで、仕切り直してまた次の持ち込み先を考えるために、Iさんと作戦会議をすることになりました。

「持ち込みって大変ですね。いまさらながら、実感しております」というコメントをくれたIさん。「いやいや、まだ3社しかアプローチしてないですよ」(実はスパルタ?)とも、「大変というからにはせめて2桁のお断りがないと」(もはや鬼?)とも思いましたが、そうはお伝えしませんでした。ここで書いていますが……(笑)

でも、3社とはいえ、その都度持ち込み先の出版社に合わせて企画を練り直すわけです。そのためにその出版社から刊行されている作品に何冊も目を通すので、すごく手間暇がかかるんですよね。そのうえ、一日千秋の思いで返事を待つわけですから、心身ともに消耗するのも無理はありません。実際、大変です。

だけど、そのプロセスを経験すること自体が、ものすごく実力を磨くことになるんですね。ひとりで翻訳の勉強をしているだけでは、そこまで頭と心をフル回転して取り組むことはないはずです。レベルアップしているのを感じながら、めげずにアプローチしていきましょう。

ということで、作戦会議の内容は……次回に続きます!

※新刊『古典の効能』が発売になりました。

『心と体がラクになる読書セラピー』が発売中です。中国語繁体字版も発売されています。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。

 

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

END